EcoEssay
ユーザ/ベンダの正しい関係
ゲーム理論から見た協調の大切さ
ユーザとベンダとの間の関係は、契約によって縛る対峙する関係ではなく、お互いの組織を思いやる協調関係の方が、全体としてご利益(りやく)があるということは、直感的には理解できると思うのですが、いざ実践となるとどうしても両者対峙した情況に陥ってしまうことが多いようです。 これは、いわばゲーム理論の「囚人のジレンマ」と呼ばれる情況です。プレイヤは「ユーザ」と「ベンダ」です。それぞれのプレイヤが取り得る戦略は「協調」と「対峙」としましょう。プレイヤと戦略の組合わせによって、それぞれのプレイヤの得る利得を以下の通りだとしましょう。
表の数字は、それぞれのプレイヤの利得、例えば利益(千万円)としましょう。そうすると、ユーザが協調戦略の場合、ベンダが協調戦略をとると、ユーザもベンダもそれぞれ3千万円づつの利得。ユーザが協調戦略なのにベンダが対峙戦略とするとユーザは0の利得で、ベンダは5千万円。逆に、ユーザが対峙戦略なのにベンダが協調戦略の場合には、ユーザが5千万円、ベンダが0の利得。ユーザもベンダも対峙戦略の場合には、それぞれ1千万円づつの利得に留まります。 さて、ここで相手がどのような戦略をとるかによって、自らの組織の戦略を合理的に決定しなくてはなりません。ユーザが協調戦略をとると仮定すると、ベンダ側は、自らの戦略を協調とすると3千万円、対峙とすると5千万円。ユーザ側が対峙戦略をとるとするとベンダ側は、自らの戦略を協調とすると0、対峙とすると1千万円となるので、ベンダ組織にとっての合理的な決断は対峙戦略です。逆にユーザ組織にとても、同様な考察によって、合理的な決断は対峙戦略です。 ユーザもベンダも対峙戦略をとる場合の利得は、両者ともに1千万円です。このような解をナッシュ均衡点と言います。一方、両者とも協調戦略をとると、両者ともに3千万円です。ユーザとベンダ両方の利得の合計という観点から言うと、両者協調の場合に利得の総額は6千万円、両者対峙の場合には総額は2千万円ですから、両者協調戦略をとる方が、全体としては良い解のはずです。 この情況は、ユーザとベンダのそれぞれの組織が、利己的に自分の組織のことだけを考えて意思決定すると対峙関係という均衡点に陥ってしまい、全体の利得は少なくなってしまうことを表わしています。 「協調」や「対峙」という戦略の意味するところは、非常に単純に言えば、同じ釜のメシ、あるいは、運命共同体として一体感をもってプロジェクトを遂行するのが協調関係ですし、逆に、相手を信用せずに契約で縛ってしまうのが対峙関係です。 どちらの戦略や企業間の関係が、社会全体として富を生み出す効率という観点から正しいかは自明だと思います。こういった簡単なゲーム理論の定式化を行うことによって、我々が本来正しいと直感していることを、論理的に説明することができます。 先に挙げた利得表をどのように設定するかとか、プレイヤや戦略の種類、さらには、同様のゲームが時系列的に繰り返される場合によって、より高度な分析も行うことができます。是非、皆さんの周囲の情況をゲーム理論的分析も試みてみてください。いろいろなことが見えてくると思います。 2010.9.10 S.Otsuki ■ |